長年編物をしてきて、「あぁ、これも前に観たことあるわ」と新鮮な驚きが少なくなってきた私が、「へぇ~、イマドキは、こんな仕組みがあるんだ!」と驚いたのが、テストニット制度。

 

ここで私が言うテストニット制度とは、

1.編み物パターンを、第三者が実際に編んで、正確であるか、説明が分かりやすいかをリリース前に検証する、パターンのテストニット

2.編み糸を、第三者がどんな編み地・どんなデザインに向くか考えて、実際に編んで検証する、編み糸のテストニット

 

まずは、1のパターンのテストニットについてちょっと考えてみます。

 

一言で言うと、パターンのテストニット自体は、とても良い事だと思います。

デザイナー・パタンナーも、編集者も、もちろん確認はしているでしょうが、編み物パターンに限らず何事でも、なかなか自分達のミスには気付きにくい(*´-`)。そして、 フレッシュな第三者ですら、ただ目で文章や編み図を確認するだけだと、どうしても「綺麗にかかれてて、正しそう」で終わってしまいがち。それを、わざわざ手間暇かけて実際に編んで確認するなんて、素晴らしい!

このように、そのパターンを購入する人にとっては、良い事だらけなテストニットですが…

私が見かけた編物パターンのテストニットは、「無報酬」(リリース前のパターンを入手出来るメリットはあるが)で「比較的短い納期」なものが多い(>_<) ウェアを編むのには、標準的な作品でも正味30〜40時間かかるんじゃないかしら?それを短期間で編むのに、編み工賃ゼロだなんて!

私は編むこと自体とても好きですが、(自分用やプレゼント用を除いては)編み工賃ゼロで編んだのは、展示会を開く友人に「ご祝儀がわりに♪」と編んだ一回だけです。私だったら、この条件じゃあ絶対に応募しないなぁ~、これで集まるのだろうか???

 

ところが

 

不思議なことに応募者がすぐ集まっているみたい・・・「どうしてかな?」と考えている時にふと思い出したのが、『トム・ソーヤーの冒険』の中の塀のペンキ塗りのエピソード!

 

 ベンがいった。
 「やあ!きみ、仕事をさせられてるな?」

 トムは、相手をしばらく見つめ、それからいった。
 「仕事って、なんのことさ?」
 「へえ、それが仕事じゃないのかい?」
 トムは、またしっくい塗りにとりかかりながら、なにげない口調で答えた。
 「そう、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただ、これがトム・ソーヤーの性
に合ってるってのはたしかだな。」
 「おいおい、まさかきみは、それがすきだなんていうつもりじゃなかろうな?」
 ブラシは動きつづけていた。
 「すきかって?そう、どうしてすきじゃいけないか、ぼくにはわからないな。子どもが塀を
塗らしてもらえるなんてチャンスは、そう毎日毎日あるもんだろうかね?」
 こうなると、ものごとは、まるでちがって見えてきた。ベンは、リンゴをかじるのをやめた。

~『トム・ソーヤーの冒険』(福音館古典童話シリーズ)マーク・トウェイン作/大塚勇三訳より~

この文章を真似てみると・・・

「ニッターがリリース前のパターンをあませてもらえるなんてチャンスは、そうそう毎日毎日あるもんだろうかね?」

 

編むことは好きな私でも、(有償の)仕事としてしか受けたくない条件であっても、それが仕事ではなく素敵な楽しみに感じられれば、無償でも引き受ける人が出てくるんですね。凄い発想の転換!私が友人の為なら無償で編んだように、仲間うちでお互いのパターンをテストニットしあっているようケースもありましたが、そこから発展してテストニッターをSNS(テストニットはSNSによくなじむ)で広く募集することを思いついた人は凄い!

 

(『トム・ソーヤーの冒険』とテストニット後篇に続く)

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